猛禽類アセスメントの実態(第一回分/全3回)

高速道路調査会誌「高速道路と自動車」原稿

グリーンムーブメント

                   ラプタージャパン(日本猛禽類研究機構)

                                                          阿部 學

1,猛禽類アセスメントの実態(第一回分/全3回)

  事業地に種の保存法対象猛禽類がいると、専門家による委員会を設け、事業の影響を予測/評価し、必要に応じて保全策を講じる。委員に提示される資料は、96年の環境庁の「猛禽類保護の進め方」に準拠した目視観察による飛翔の軌跡と巣の位置のみである。地図上の多数の線を何時間眺めても影響評価ができるはずもなく専門家は影響を想像し、「重大」や「軽微」などの私感を述べる。

 影響ありと感じれば保全策を提言するが、この保全策と観察結果とは何ら脈絡がなく、専門家が頭の中でよかれと思いついた事柄でしかない。曰く非繁殖期の工事、低騒音型・低振動型重機の使用、作業員の隠蔽、トンネルに防音扉、巣直近道は迂回、ヘリの飛行禁止、重機類の塗色変更、作業員の教育等々。しかも奥地山岳帯のイヌワシ、クマタカも里山のオオタカも恰も判で押したように同じでこれ以外を見たことがない。

 これらの保全策には生きていく上で不可欠な生息環境保全の考えは全くなく、いずれも静々と隠れて事業を進めることに腐心しており、完成時には環境は荒廃して住めなくなっている。ダムに至っては住処は完全に水没しており、保全に名を借りた騙し討ちとの誹りを免れない。

 目視は毎月、巣を取り囲む数地点で数日間行うので一事業地あたり年間数千万円を要する。これがダムともなれば飽きもせず20年も30年も続ける。問題は莫大な税金を投じた調査結果が全く使われておらず、換言すれば調査もせず委員会も設けず金太郎飴式の「保全策の印」を押しても同じで,委員会は猛禽はそっちのけで事業にお墨付きを与える場と化している。

 そして馬鹿げた提言でも委員会決定事項ともなれば実行せざるを得ないという不文律がある。愚策の一例は、オオタカの巣への光の遮断、巣立雛の車との衝突回避として、2個所で11億円を投じてドームを建造した。同じ路線近傍には数十の巣があるというのに。オオタカは営巣木を転々と変える上に、枯損、倒伏もあるので後にはドームだけが残り永劫に維持費を食う。

 道路公団時代の永年の調査では、路上でオオタカの死体は一羽も回収されていない。これまでに猛禽アセスに投入された税金の額と有効な保全策がどれだけあるか検証する価値はある。

 騒音、振動、大気質、水質などの分野ではある閾値を超えると生理的/精神的障害を惹起することを臨床試験により実証し、これをもとに定量化(ppm,dB等)しガイドラインが設定されている。そもそも線状の飛跡を眺めて事業の影響評価ができると考える方が非常識であるが、猛禽界ではこの非常識がまことしやかにまかり通っている。

 例えば巣への接近、カメラ設置、ヘリの飛行で営巣を放棄するというが、アイダホ州では毎年数十のオオタカの巣上にヘリを飛ばし、抱卵中の親を追い払い卵数、雛数、巣立数を調べたり、定期的に卵雛の計測を行いこれらをもとに管理指針を策定している。

 我が国の人の良さは、専門家が証拠もなしに想像で宣った神話が定説となり誰も疑わないことである。欧米でも想像豊かな御仁は多いが必ず実証試験を行う。エバグレーズの飛行場建設とカタツムリトビ、カリフォルニアコンドルと保護区面積、ハリアー戦闘機と猛禽類等々、枚挙にいとまがない。

20131月号Vol.561):27-27.

第2回に続く!