猛禽類アセスメントの実態(第二回分/全3回)

高速道路調査会誌「高速道路と自動車」原稿

        グリーンムーブメント
                        
                                ラプタージャパン(日本猛禽類研究機構)

                                                                阿部 學

2,猛禽界の神話と真実(第二回分/全3回)

  猛禽界に神話が生まれ定説化するのは、国に野生鳥獣の研究機関がないためデータが生産されず、その上神話を検証できないからである。トキ、カワウソの絶滅、シカ、イノシシの爆発的増加はデータなしの獣行政の産物である。私は永年猛禽類と付き合ってきたせいか猛禽委員会に招請されるが、そこで錚々たる専門家の神話に遭遇するたびに科学的データの必要性を提言してきた。

 しかし事業者は生物は環境省の所管だといい、専門家は「ボクの猛禽」に手を触れることに頑強な拒否反応を示す。やがてGPS(全地球測位システム)調査の結果を示すと、神話と実態との乖離に驚き、今では徐々に提言が採用されるようになった。手法は猛禽類に最軽量17gの ソーラー搭載GPS発信器を装着して人工衛星で追跡する。

 これにより高精度の緯度・経度のほか高度、方位、速度などが得られる。これまでの定説では、オオタカは巣を中心とした半径2キロの行動圏とされてきたがそれは双眼鏡で見える範囲で、実際は毎年、関東から九州や北海道へ渡る個体がいたり、従来の定説とは似て非なる距離と形態の行動圏を持っている。

 従って、毎月の観察ではどこかからの漂行個体を眺めているのかも知れない。巣の周辺で観察していると遠方からの帰還の都度、飛跡が増え時間の経過と共に地図は真っ黒になり全面が高利用域、即ち重要なエリアと評価される結果、繁殖期間中は事業の中断が提言される。しかしそこは通路であって重要な餌場は目の届かない数km先にある。

 クマタカは恰もジグソーパズルをはめ込んだような堅固ななわばりが描かれているが、GPSによると複数個体が入り乱れて生活している。個体識別がないので上空通過個体は自分の担当区域の個体と錯覚して当然である。イヌワシも稜線で遮られた視野範囲を眺めて行動圏面積を算出しているが、北米のイヌワシは年間に数万kmの移動をしている。

 月に数日間の目視に比べGPSの位置情報は36524時間の情報が居ながらにして毎日パソコンに届くので年間千点超の位置情報が得られ、GIS解析を行うと対象種にとって意味のある植生、地形、標高などが浮き彫りになり事業の予測/評価に貢献する。何よりの利点はアセスに利用可能な定量的なデータが得られ、しかも受信料は年間に数十万円で済む。ただ、GPS調査を各事業地で展開することは想定していない。植生区分帶ごとにモデル地域を設けて調査を行い、その成果を各事業地に援用すればよい。

 最後に目視観察が無用の長物とはいわない。ただ飛跡図はアセスには使えないので,年間数千万円の税金投入に値する別の利用法を考えることをお薦めしたい。そもそも「猛禽類保護の進め方」をアセスのマニュアルと誤解している向きが多いところに猛禽類の悲劇がある。

 マニュアルであれば目的、課題、調査法、結果の解析法、評価法が揃っていなければならないが、この中を紐解くと23箇所に亘って「専門家に聞け!とある。

20131月号Vol.562):24-24.

第3回に続く