猛禽類アセスメントの実態(第三回分/全3回)

高速道路調査会誌「高速道路と自動車」原稿

グリーンムーブメント

                   ラプタージャパン(日本猛禽類研究機構)

                                                          阿部 學

3,事業の影響評価と保全策(第三回分/全3回)

  フロリダ半島の飛行場建設は、カタツムリトビに重大な影響ありとして反対運動が起こった。するとノースウエスト航空会社が旅客機を提供して離着陸を真似ている間に、実験区と対照区でそれぞれ数十の巣について繁殖成績を比較した。有意差検定の項目は産卵数、抱卵時間、孵化率、巣立ち率、給餌量、雛の成長などである。

 アセスに使える調査法は多数ある。餌現存量はセンサス法があるし、巣にカメラを付ければ事業の認識度をモニターできる上に餌種とその量が把握できるほか抱卵、育雛、雌雄/親子/雛同士の関係なども解明できる。かくして土地改変に起因する餌減損量から影響評価が可能であり、モニター結果からガイドラインの設定もできる。さらにGPSによる位置情報があればGIS解析により環境容量の定量的把握が可能である上に行動圏や採餌場、架巣環境,子育ての場も把握できるので工事用道路/ヤード、土捨場、原石山、付替道路などの位置決定にも貢献できる。

 カリフォルニアコンドルは87年には6羽となった。絶滅を危惧した保護論者は何度も保護区の拡大を要求し、実現したが減少の一途を辿った。そこで研究者が発信器を装着した結果、猟獲された屍肉による鉛中毒と判明し、鉛弾の使用禁止と汚染されない死体の給餌により昨年には野生個体が190羽になった。

 アセスのための手法は多々あるのに、専門家は使い物にならない飛跡図を十年、二十年と眺めてこれまで何一つ提言してこなかった責任は重い。絶滅危惧種の保護を標榜しながら物言わぬ専門家は事業者にとって有り難い存在である。

 GPSの利用例を2-3紹介すると、
1)架橋の際、資材運搬用ワイヤーにクマタカが衝突するとして電球、リボンなどの装着が提案されたが、それでは機能しないので観察で飛翔高度を確認する案も出された。そこでGPS発信器を装着した結果ワイヤーの遙か上空を往来していた。

2)クマタカによる土捨場候補地利用の有無が議論になったが、GPS発信器を装着した結果、そこは移動経路でしかなかった。

3)GPS発信器を事業前に装着した結果、事業中との比較,事業後のモニタリングができた。事業現場を忌避すればGPSの位置は事業地から遠ざかるが、さもなくば事業を意識していないことになる。

4)年により交互に使っていた2巣を事業により伐倒することになった。GPSにより2巣以外に高利用林分があったので、そこに人工代替巣を架設した結果その林内で繁殖した。

5)これまで代替巣は専門家の山勘で林地が指定されてきたが、その林分にGPSの点が全く落ちなかったので高利用林分に付け替えた。

6)このほかGPSによる抱卵期間中の影響評価や工種ごとの反応などアセスに貢献する少なからぬ事例が蓄積されている。

 絶滅危惧の背景には必ず原因があるので、その原因究明と排除が必須である。世界広しといえどもデータなしに掛け声や精神論、双眼鏡だけで絶滅危惧種を救った例を知らない。この意味から国立研究機関の創設は喫緊な課題で、本文もその一行動であるが機会あるごとに環境省を援護したい。

 筆者の時代にはアセスなる言葉もなかったので、この分野ではズブの素人である。にも拘わらず畏れを知らず並み居る専門家を差し置いて大胆に述べた部分が多々あったことを認めたい。

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